きっと最初で最後の恋のお話

 

あれはきっと本当の初恋というものだったのだろう。

思うと胸がギュッと締め付けられ、伝えたいことも上手く伝えられない。どうしたい、どうなりたいということよりもただただ好きという気持ち。好きだけじゃどうにもならないという刹那的な思い。私は私、相手は相手。この気持ちは自分だけのもので、誰にもわかってもらえないし、わからなくて良い。ひとりよがり、あれが最初で最後の恋だった。

 

 

もう二度と会えないかもしれないと思った日。私は手紙を書いた、何かしないともう二度と会えないと思ったから。そんなの嫌だったから。何度書き直したか覚えていない、なんて書いたかも覚えていない。でも気持ちを込めて、ドキドキしながら書いたあの手紙。

 

出会えたということが本当に奇跡的な相手で、高校生の私たちにとっては"遠距離"で、なにより住む世界の違う、交わらない関係だった。それでも私は手を伸ばして、一瞬だけ希望を掴み取った。完全に自ら掴み取ったという感じだった。

 

 

手紙を渡したあと、私はデートに誘った。少しずつ暑くなってきて雨の日が多い初夏の頃。花火大会のお誘い。こんなこと、初めてだった。手が震えた。何度も何度も携帯電話を確認して返事を待った。そして涙が出るほど嬉しかった「いいよ」の返事。

あの頃の私は、彼氏が出来たこともなかったし、異性として好きだと思える人もちゃんと出来たことがなかったし、当たり前にデートなんてしたこともない。そんな私がありったけの勇気を振り絞って作ったチャンス。そして手に入れたキラキラした夏。16歳の夏。

 

しかし驚くことに、私が彼を思って幸せだったのは、恋に落ちてから1回目のデートをしてお付き合いを始めた数日後までのたった1ヶ月半ほどだった。「幸せは長く続かないんだな」「好きって気持ちだけではどうにもならないこともあるんだな」そんな風に学んだ夏の恋。

 

初めてのデートの夏祭りで手を繋いだこと。私の知らない彼の生活に少し触れたこと。雨上がりで、彼のずぼんの裾が濡れていたこと。パピコを半分こしたこと。ご両親に会ったこと。彼の住んでいる街に「馴染めない」と感じたこと。帰り際の言葉、行動。「また会える」と思った嬉しさ。そして困惑。私は憧れの人と恋人同士になれたのだ。

帰りの電車で私は1人泣いた。あれはきっと嬉し涙だけではなく、もっと複雑な涙だった。

 

中々会えない距離の中、遠いのは距離だけでなくあっという間に心まで遠くなってしまっていた。私は必死になって自分の気持ちと向き合っていたけど、彼と向き合うことはなかった。だから、あれは恋愛ではなく、恋だったのだ。大きな片思い。

 

交わらない線はずっと平行線のまま終止符を打った。結局、彼が私のことをどう思っているのかも聞かずわからないまま別れを告げた。呆気ない終わりだった。

 

今思えば、もっと上手くできたような気がする。でもだからこそ、あの夏の時間はきっとこの先もずっと心のどこかに大切にしまっておく記憶。例え忘れられてしまっても、私は忘れたくないな。

恋をしていた自分が好きだったから。誰かを好きな自分が。恋に落ちる瞬間から失恋した時までの心動きが愛おしかった。

 

もう二度と会うことのない彼の話。